雨の降る夜に
-Edward side-








雨の中お前が飛び出して行った時、
俺に何ができただろう。


お前の指が喉にかかった時、
それでお前の中の何かが変わるならば、
そのまま殺してくれと願いさえした。
それを聞いたら、お前は何て言うだろう。





ふさいでもふさぎきれない雨音が、
まるでアルの叫びに聞こえた。



お前の苦しみや痛みに、
俺が気づいていないと思うか?

たった一人の弟の絶望に気づいてやれない。
そんな兄に見えるだろうか。


指を伸ばしたその先で
いつもふれあうことはできるけれど。
心に直に感じていたお前の絶望を、
どう包み込めばいいのか。
ただそれだけが分からず、途方にくれていた。


この雨と同じように。
お前の心には、いつも悲しみが降り注いでいたのだろうか。


どれだけ一人でたえていた?
どれだけの痛みを持って、
どれだけの間、一人で立ち尽くしていた?






エドはきつく閉じていた瞼をこじ開けた。
部屋の扉はアルが開け放した形のまま、
廊下のチラつく明りが見える。


エドは半身を起こし、ベッド脇の窓を開けた。
申し訳程度の雨どいをくぐり抜け全身を濡らす勢いで、
雨が部屋に侵入する。

エドは窓から身を乗り出して、
弟の姿を探した。
雨で霞む景色にじっと目を凝らし、
祈るように両手を天に掲げる弟の姿を視界に捉える。



「アル・・・」


どうすればお前に届くだろう。
どうすればお前のそばに行ける?



エドはゆっくりと両手を前に差し出した。
雨が遠慮なく叩きつけるけれど、
躊躇うことなく真っ直ぐ腕を伸ばした。



アルに届くように。
アルが伸ばした腕を掴めるように。
離さないように。



けれど、アルは気づかない。
その目は遠く高くを見つめている。


「アル」


祈るように呟くけれど。
裏腹に弟は地面にくずおれた。



弟の姿が霞んで見えるのは、
果たして雨のせいだけだったろうか。







なぁ、アル。
もう泣くな。



お前が絶望に足をとられてしまうなら、
俺が引き上げてやるから。

もしもお前の絶望が深くて、
俺の力じゃ引き上げられないなら、
一緒に沈んで、
また一緒に這い上がればいい。



だから、なぁ。
もう泣かないでくれ。





空は、泣かない人の代わりに
涙を落とすという。

悲しみを集めて、
全てを濡らすという。




雨はまだ、やみそうにない。