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蒼い。
青とも碧とも違う。
鮮やかな艶を消してしまったような、
そんな蒼。
それは夜空にも似ていて、
穏やかな冬の海にも似ていて、
だがそれらとも違う。
存在するだけの蒼じゃなく、
そこに鼓動を感じる蒼。
一面を覆う蒼。
凝縮された蒼は球体へと形を変え、
どこへともなく差し出した指先にふれる。
ゆっくりと。
インクが紙に滲むように、
ゆっくりと、ゆっくりと。
細胞を確実に侵食する。
それは血となって、
空気となって、
体温となって、
命となって。
体が気づかず別のものへと変化していくような、
そんな緩やかな違和感。
蒼に、
溶ける。
蒼の一部になる。
夢の触手が、
ふとエドの意識を手放す。
まどろみの中、絡みつくような睡魔に、
再び瞼を閉じそうになる。
「・・・蒼」
眠りに逆らってこじ開けた眼差しの先に、
蒼が広がっている。
まだ夢の続きを見ているのだろうか・・・。
そんなことをうとうとと考えながら、
エドは一瞬目を伏せかけて、
ようやく気づく。
視界を染める蒼。
暖かくて、心地良いその蒼色。
「大佐」
エドを抱えたまま眠っているその人。
軍服さえ着替えぬまま眠るロイの腕は、
エドをしっかりと包み込んでいた。
『ずっと、ここにいる。』
眠りにつく寸前の他愛のない約束。
簡単に破棄されてしまってもおかしくない、
そんな約束を。
「まもってくれたのか・・・?」
声には出さず呟く。
なぜだか、鼻の奥がツンと痛んだ。
心の深いところが締めつけられるように苦しい。
そっと、頬をすり寄せる。
蒼。
暖かい蒼。
こんなに優しい蒼を、
俺は知らなかった。
この蒼が、
こんなに優しかったなんて。
そっと微笑って、
ロイの背に腕を回す。
大佐が目覚めたとき、
この暖かさが・・・大佐にも伝わりますように。
眠りが様子を伺うように、再び触手をのばしてくる。
エドは自ら意識をそれに委ねた。
蒼い、
蒼いまどろみ。
もう少しだけ、
この蒼の中にいさせてほしい。
もう少しだけ。
この、温もりの中に。