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響いている。



微かに、それでも深く。
響く。



響いている。









雨の雫が傘を伝って落ちた。


ぱしゃぱしゃと水を蹴って歩きながら、
ただ足元ばかりを見つめる。
跳ねた水が、
服の裾にじわじわと染みを広げていく。




黙々と、ただ黙々と足早に歩いて、
角を曲がり、
そして唐突に立ち止まった。



視線はまだ足元に注がれている。
敷石の溝を滑っていく雨水を
無意識に目で追っている。


溝を滑って流れていく水は、
道に多少傾斜が設けられているのだろうか、
一箇所に渦を巻きながら集まっていく。




ふいに、
その手から手から傘が落ちる。


支えるべきものを失った傘は
少しだけ風に揺れて、
敷石の上に転がった。



「・・・・・・」


先ほどまで傘を握っていた手が、
自らの胸元を掴む。
関節が白く見えるほどに、
強く強く。


何かを止めるように。
溢れ出そうな何かを、
無理矢理に押し込めるように。



雨に打たれ濡れた琥珀の髪が、
俯く頬に張りつき、
額を伝った雫が睫毛を濡らす。



瞬きの拍子に雨水が目に入り、
微かに染みた。




「・・・なんで」


かすれた声で呟く。


「どうして・・・」



脳裏から離れない言葉。
響く、声。


意識などしていないつもりなのに、
その声のトーンやその表情まで鮮明に思い出せてしまう。



「俺を守りたい、なんて」
ワケ分かんねえよ・・・。




柄にもなく切羽詰ったような表情で、
そんなこと言われたら。



冗談で笑い飛ばせなくなる。

その言葉が真実なのだと。
目を背けられなくなる。




「なんでなんだよ・・・」



その言葉が束縛するように、
心の自由を奪った。


無理にでも、
笑って誤魔化してしまえばよかったのに。


気に留める理由など
本当なら見つからないはずなのに。




どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。


どうしてこんなに、せつないんだろう。




「変だ・・・俺・・・」






響く。
響く。



揺らすように。
ふるえるように。


響いている。







よろけるように壁に手をつき、
寄りかかる。



両腕で自らの体を強く抱きしめた。



雨水が溝から溢れ、流れていく。

流れを妨げていた傘の向きが変わり、
その内側に雨が当たって
バラバラと音を立てる。




ふと目を伏せる。
瞼の向こうは白く明るい。



エドは小さく吐息を漏らした。








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