夕暮れ
「もし私が君の代わりに・・・」
そこまで言って、大佐はふと言葉を途切らせた。
俺は視線だけを大佐へと向ける。
「もし私が君の代わりに、弟を元に戻す手段を探してやると言ったなら・・・、君は私の傍にずっといてくれるかね?」
怪訝な顔をする俺を、顎を組んだ指に乗せたまま、大佐はいつもの不敵な笑顔で笑って眺めていた。
俺は何となく、天井を見上げる。
執務室の天井は、一点の汚れや染みもなく真っ白だった。
そのままの姿勢で答える。
「それはできないね。」
「・・・何故?」
「これは俺が為すべきことだからさ」
一瞬の間のあと、大佐が喉を鳴らせて笑った。
「君ならそう言うと思ったよ」
「分かってるなら・・・」
言いかける俺の言葉を塞ぐように、更に言葉を重ねた。
「君が選んだ道だ。元より迷いなどないだろう」
そう言った大佐の顔から笑顔が消えて、刺すように鋭い視線で俺の目を見据えた。
「だが、忘れるな」
「・・・・・・?」
「私は君のためなら出来うる限りのことをしよう」
「その代わりとは言わんが・・・、必ず生きて戻って来い」
はっとして、俺は目を見開いた。
「君は私の傍に留まってくれはしない。・・・それならばせめて、私の今の言葉を忘れるな」
真摯な言葉だった。
「ああ。」
頷いて俺は、大佐の目をしっかりと見つめ返した。
エドのいなくなった部屋で、ロイは一人窓の外を眺めていた。
「本音を言えば、無理にでも傍におきたいが・・・」
眉をしかめて呟く。
それでも自らの意思を貫き進むエドの羽を、ロイには折ってしまうことなどできなかった。
この手に抱えてもすぐに自由を求めて飛び立ってしまう・・・、彼が鳥なのだとしたら。
私はその鳥が羽を休めるための宿り木であれれば良い。
「私らしくないな」
ロイは苦笑して、夕闇に消えていく幾羽もの鳥を、ただ黙って見つめ続けていた。
■イメージイラストの提供者さま■
野口五月さまから頂きました(*- -)(*_ _)
ありがとうございます。