兄さんにさわりたかった。


兄さんを感じたかった。


兄さんにとっての僕が何なのか、それを知りたかった。


兄さんに執着する僕は何なのか、それを知りたかった。






「・・・っあ。ぁぅ・・・」


藍色に染まった、月明かりだけが照らす部屋。
静かな室内に、細く甲高い声とベッドの軋む音が響く。


「あぁ・・・ぅ・・・。んん・・・っ」


ベッドに体を横たえ、かすれた声で啼くのは僕の兄さん。
兄さんの弱みを責め立てる指の動きを少し休めて、僕は声をたてずに少し笑った。
はっきりと、あえて耳元で囁いてやる。
「・・・兄さん、気持ちいいの?」
ほどけて汗で頬に張り付いた琥珀色の髪をそっとかきあげて、
返事を促すように髪色と同じその目を覗き込むと、
兄さんは嫌がるように視線を逸らそうとした。


「言ってごらんよ、兄さん。気持ちいいんでしょ?」


そう言いながら、兄さんの下腹に僕は再び指を這わせた。
僕の指の動きに、兄さんの体は正直に反応する。


「やめ・・・、アル・・・っ・・・」
びくんっと跳ねる体。


「こんなに大きくしちゃって・・・。弟にこんなことされて感じちゃうんだね」


先端を弄ぶように指先で撫でながら、軽く手を上下させながら言う。
否定するように必死で首を振る兄さんの目に、涙が浮かぶ。
快感による生理的な涙だろう。
兄さんは言葉で嬲られるのに弱い。
知っていて僕は、兄さんを酔わせる言葉を紡ぐ。


「違うの?嘘はダメだよ・・・兄さん。こんなに反応してるくせに・・・」
僕の放つ言葉と指の動きに翻弄される兄さんの目が、次第にとろりとした快感に沈むのが分かる。


「アル・・・アル・・・っ。・・・もっ・・・あぁ・・・っ」


快感をより深く貪ろうとしているのか、無意識に腰を揺らす兄さんの脚を強引に拡げて
僕は指を挿しいれた。


「ぅあ・・・っ」


一瞬痛みで眉間にしわを寄せたけれど、その表情はすぐ一変した。
「もっと気持ちよくしてあげるよ・・・」
右手は内部をかき回すようにしながら、左手でヒクつく兄さんの脚の付け根を責める。


脚を拡げて、うつろな目で喘ぐ兄さん。
普段なら絶対に出さないような甘くかすれた声。
その声が必死に僕を呼ぶ。
もっと、もっとと快楽をせがむ。
兄さんがこんなにはしたなく喘ぐ姿を誰が想像できるだろうか。

・・・もちろん、誰にも見せやしないけれど。


可愛いよ、兄さん。
僕だけの兄さん。


こうしている時は兄さんが僕のことだけを見て、感じてくれる。
兄さんはこんなのを望んでないかもしれないけれど。
それでもこの瞬間、兄さんは僕だけのものになる。
肉体を持たない僕が、兄さんのぬくもりを感じられる。


「・・・・・・」


黙ってしまった僕を見つめる兄さんの目に一瞬光が戻る。


「アル・・・」


右手を伸ばして、僕の頬に触れる。
鎧の体と機械鎧が触れ、微かに金属音が鳴った。


「・・・兄さん?」


兄さんの指が何度も僕の頬をさする。
かすれた吐息を小刻みに吐き出す。


「アル・・・泣かないで・・・」


兄さんが、泣きそうだった。
唇が震えている。


「・・・この体じゃ涙なんか出ないよ」
僕の声が届いているのかいないのか、兄さんは何度も「泣くな」と繰り返した。


哀しい目だった。
主導権を握っているのは僕のはずなのに、一瞬その立場すら逆になったような気がした。
強引にその手を振り払う。


「余計なこと考えないで」


言い放ち、さっきよりも強引に、激しく兄さんの体を責め続ける。
「アル・・・んん・・・ぅ・・・・・・っ・・・!!」
兄さんの目がまた光を失って・・・。
感極まった声で、そのまま絶頂を迎える。


白濁が、散った。




僕は横たわり肩で息をする兄さんを黙ってみつめていた。
細いけれど筋肉質の体に、僕の強引な行為によって何箇所も傷ができていた。


「兄さん・・・ごめん・・・」
時々僕は兄さんをこうやって傷つけずにいられなくなる時があった。
そのあとは罪悪感でひどく苦しむ。
ホントにツラいのは僕じゃなくて兄さんなのだろうけど。


兄さんがぐったりと力のない体を強引に起き上がらせて、僕の体にしがみつく。
短い呼吸を懸命に整えて呟いた。
「愛してるよ・・・アル・・・」


嘘のない言葉。
自らに屈辱を強いる僕を、この人は怨もうとさえしない。
それどころか・・・。


いっそ。

いっそ、憎んでくれ・・・。


僕は兄さんの背中に腕を回すことすらできなかった。


「愛してる」

優しいその声。





心が痛い。


涙はでないけれど。


涙も流せない、からっぽの体だけれど。


心が、痛い。


「痛いよ、兄さん・・・」


・・・・・・けれど。


今はこの痛みこそが。


僕が人間であることの、唯一の証明なのかもしれない。